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2007/05/15

Ashleyさんの件に関するWPASレポートとシンポジウム

親がそう呼んで欲しいと言い、そして世間でも通称「アシュリー療法」(Ashley Treatment)と呼ばれている、医師の処置があった(私はあまりその呼称は使っていないけれども)。
本件に関するこれまでの記事は以下にまとめてある。

growth-attenuation treatment(重度発達障害児の成長を止める“療法”)について(mnagawaHP)

これについて、ワシントンのWPASという権利擁護団体が調査報告書を発表した。また明日水曜日(5/16)に、本件に関するシンポジウムが開催されるとのこと。節目となる出来事なので報告する。

ただしこの情報は、ひとえに今までも継続的に教えてくださった方からのものである。レポートの翻訳までしてくださった。Kさん毎度どうもありがとうございます。私の寄与は特になく、理解も不十分であるしここに書くこともかなり端折っているというか細部について不正確なところが申し訳ないのだが、ひとまず記載する(時間があればもう少しゆっくりと読みたいんだが)。Kさんのほうが深くて鋭い。
 

レポート原文は以下の場所から入手できる。このページの上部にpdfファイルへのリンクがあるので、そこからダウンロードして欲しい。

WPAS Finds Hospital That Performed “AshleyTreatment”Violated Law by Not Having Court Order (Disability Rights Washington, May 8, 2007)

WPASは Washington Protection and Advocacy System の略で、いわゆるワシントンにあるP&Aである(6月1日からはDisability Rights Washington; DRW に名称変更予定、上記HPは一足先に変更済みなので注意)。これについて今回のレポート冒頭から訳出していただいたものを抜粋して末尾に示した(註1)。日本では、2000(平成12)年にイリノイ州のP&A活動を視察した集団が、後ろ盾などまったくない状況で独自に展開を行っているのだが(→こちらのページ参照)、それは置いておいて本題。

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先ず彼らWPASの調査目的は、虐待・ネグレクトの事実確認と、法的権利の侵害に関する判断である。
関連文書の調査と面接を行い、事実を整理し、判断を提示している。

途中を省くが、今回の最少の要点は、①法律的には発達障害者の子宮摘出については裁判所の命令と、本人の利益を代弁する法定代理人によるヒアリングが必要だったことについて、病院が過誤を認めて謝罪、②WPASとの合意に基づき、今後の再発防止の方針を作り、倫理委にアドボケイトを加える、というもの。

①については、これまでの判例からすれば然るべき手続きが取られ、裁判所命令が必要であったところが、両親が相談した弁護士(障害児のアドボケイトとしての実績有り)は、今回はsterilization(断種・去勢)目的ではないから裁判所命令不要と考えた。それで(その判断を以て)外科医も医療部長も承認したという経緯。だから今回は合法性判断が為されることなく処置されてしまった。このような、裁判所判断無しの不妊手術部分(目的の適用についても議論があったが省略)については憲法ならびにワシントン州法に違反しているとWPASは結論づけている。(こう書くと単なる弁護士の判断ミスのように読めるかもしれないが、親のblogやこれまでの関係者発言から決してそれだけではないので、念のため言い添えておく)
②については、このような調査の前後関係に際して、病院側とWPASが同意したらしい。


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少しだけ私のコメントを。
この手続きの中で取り扱われている判例では、いわゆる医療上の同意能力(コンピテンシー)(註2)のない大人や未成年について法定代理人がついて判断すべきとされていることが示されている。気をつけたいのは、これが単に形式的ではなく、きちんと熱心に(zealously)利益代弁されなければならないこと。また、親と本人の利益が同一視されることがないこと。どちらも日本の現行手続きでは曖昧にされている部分では無かろうか? よくよく検討されたい。

もうひとつ、これは情報提供してくれたKさんのこれまでの継続的な情報整理と整理によるものなのだが、米国のどのニュースソースにも、本件に関わりそうなお金の流れや理解しにくい動きがあることが表面だって示されていないと、疑義を提起している。スキャンダルめいた話ではあるのだけれど、これだけ追いかけているマスコミが、なぜ突っ込まないのか不思議、と。関心のある方は、これまでに流れた情報を眺め直していただきたい。 
 
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このレポートに続き、シンポジウムが開催される。参照ページは以下。
The Ethical and Policy Implications of Limiting Growth in Children with Severe Disabilities (Treuman katz Center for Pediatric Bioethics)

May 16, 2007
8 a.m. to 4:30 p.m.
University of Washington School of Law - Magnuson-Jackson Moot Court Room

既に会場は一杯で申込が閉め切られた模様。かなり反応がある。関心が高いということか。
一日をかけて幾つかのシンポを行う。この模様についてはウェブにて生中継されるようだ。現地8時半から中継開始だとのこと。日本は現地よりも確か13時間早いので、同日16日の21時半に始まり、翌朝5時半までの放映だろう。これはたいへんだが、関心がありかつ英語に堪能な方はご覧いただきたい。多様な側面から集中的な議論が行われるはず。
 
 
加えて、本件について以下のブログもコメントを寄せている。参照されたい。
ワシントン大学病院における重度障害児への「子宮摘出手術」はやっぱり違法(*minx* [macska dot org in exile]、07-05-13)

関連ニュースは下記。
Children's Hospital says it should have gone to court in case of disabled 6-year-old (The Seattle Times, Tuesday, May 8, 2007)(同キャッシュ
Report: 'Pillow angel' surgery broke law (CNN, May 8, 2007)(同キャッシュ
 
 
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■註
1)P&A: The Developmental Disabilities Assistance and Bill of Rights Act (DDA) (発達障害支援および権利章典法)、the Protection and Advocacy for Individuals with Mental Illnesses Act(精神障害者のための保護及び権利擁護法), the Protection and Advocacy for Individual Rights Act, the Revised Code of Washingtonなどに基づき、ワシントン州において障害者の保護と権利擁護サービスを提供する民間NPO。設置は連邦政府により各州、テリトリーに義務付けられており、全国で57のP&Aシステムがある。活動資金の大半は連邦政府が提供。発達障害のある人への虐待とネグレクトが疑われる場合に、調査を行う法的権限が与えられている。
2)医療上の同意能力: 例えば、トマス・グリッソ、ポール・S・アッペルボーム著(1998)北村總子・北村俊則訳(2000)「治療に同意する能力を測定する」日本評論社。このほかにも雑誌論文ほか関連文献多数。日本においては医療上の同意をどうするかについては、未だ議論の途上にある。現場では当然問題になったり、あるいは混乱を避けるための便宜(方便)が取られていたりする。さらにこのような問題は医療以外でも本人決定をどのように代理しうるかあるいは出来ないかが法律上、生活支援上で関心が高まっている(けど十分ではない…)。
 

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コメント

絶対に遅れられない仕事があったので徹夜しており、それで傍らにWebCastのモニターを置いていた。最初を逃したけど午前のプログラムをほぼ見ていた。現在は昼食が終わって午後のセッション。しかし正座でもして注意深く聞いてやっと何となくわかる程度のヒアリングなので(センテンスが長くつながると付いていけない…一週間くらい滞在しているとかなり慣れるんだけどな)、片手間では無理。早口されるととうてい無理。結局、これでは本筋の仕事が手につかないので、シンポジウムはBGMとなった。なんだかけっこう時間のディレイがあるような。
MKさんやEKさんのコメントを期待しよう。

…MKさんから、今リアルタイムで見てるけど、名川さん見てる?とメール。いや、見てますけどBGMで流してます、と返事したところ。1人、MKさんの推論と近い発言をしていたらしい。
 

投稿: ながわ | 2007/05/17 07:38

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