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2006/12/18

アンダーカレント/豊田徹也、から(その3) ~ クリスティ、加納朋子

Ⅲ.

この漫画は、幾つかのことがきっかけで、それまで気付こうとしなかったことに気付いていったり、あるいは自分の心の底にあった気持ちを自分自身で知っていく過程を描いているとも言える。
そういうモチーフの物語はいろいろとあるだろう。あなたは何を思い浮かべる?

そんなプロットとして私が最初に思い出すのは、アガサ・クリスティの「春にして君を離れ」だ。

春にして君を離れ(アガサ・クリスティ)

ファンには既知のことだが、これはアガサ名義ではなく、メアリ・ウェストマコットの名前で書かれている。そしてこれはミステリーでもない。
彼女にはウェストマコット名義の作品が幾つかあり、それらはいずれもミステリーではない(ただし日本では現在はアガサ名のノンミステリー小説として出版されている…昔はウェストマコットだったんだけどな)。

確かこんな話。良くできた家庭人である主人公の女性が、あるとき旅行先の交通トラブルで足止めを食らってしまう。周囲には時間をつぶす対象もなく、通信も出来ず、持ってきた本も読み尽くし、何もすることが無くなってしまうと、実務的に有能な彼女はどうにも退屈になる。退屈がいい加減重なるとどうなるのか私はよく知らないが、主人公は否応なしに、ぼーっと思い巡らせる時間をたっぷりと得ることとなる。
そして、楽しかった会話や誇らしい家族のことをあれこれ思い出していくと、ふと、幾つかのピースが組み合わさり、今まで見えなかったことに思い至るようになる。むしろそれは、彼女が認めたくなかったことだったのかもしれないこと。そして、考えれば考えるほど、そのピースは組み合わされていき…。

中学か高校の時だったと思う。小学校の頃から少年探偵団やルパンを読み、その先にアガサ・クリスティやエラリー・クイーン等々を読み散らかしていた頃だったから。

解説を最初に読んでいたので(^-^;;これがミステリーではないことはわかっていたのだけれど、ミステリー以上に引き込まれてしまったかもしれない。えらく心に落とし込まれてしまった。
その後に同作家名の「薔薇といちい」や「愛の重さ」なども読んだように記憶している。しかし今でも引っかかっているのは「春にして…」だ。

人は気付きたくないことをあれこれ抱えているのだろうと思う。それは無意識となっていたり。
しかし時に、それらがわかってしまうこともある。わかることで得るものもあるが、失うものもある。でもわかってしまったら、もう以前の自分には戻れない。それも含め自分として、生きていかざるをえない。
たいていの場合は。
 
 
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加納朋子の場合は、このような気づきをもう少し日常の中で展開してくれる。日常の謎を扱うミステリー作家といわれる所以だろう。

加納朋子(bk1)

これまでにも彼女の作品についてはエントリーしたことがある(→ここです)。その後もポツポツと読んでいるが、そのたびにほわっとしたり、ひんやりとさせられたりする。基本線としては暖かく明るいのだが、その中にふとそれだけでは済まされない人間の性も示されたりする。日常の中のわかることとわからないことの間に様々なことが埋め込まれているのだと、彼女の作品を読んで感じる。このことについて「月曜日の水玉模様」(文庫版)の解説で西澤保彦氏が、「掌の中の小鳥」からの引用として以下の部分を紹介しているので、私もこれに倣って引用させていただく。

人間の心のなかには、きっと無数の引き出しが存在しているのだ。美しい物が一杯詰まった引き出しもあろうし、醜い形をした生き物が、隅の方にうずくまっている引き出しもあるだろう。意図的に鍵をかけてしまおうとする引き出しもあるかもしれない。だが多くの引き出しには、様々な物が一緒くたに詰まっているに違いないのだ。美しい物と醜いもの。善い物と悪い物。あるいはそのどちらでもない物。それらがヤジロベエのように危うい均衡を保ちながら、おそらく人は生きているのだろう。(加納朋子『掌の中の小鳥』文庫版(創元推理文庫)、p131)

まだ未読の作品もあるので、楽しくて仕方がない。一気読みなどせず、ときどき本屋さんで背表紙など眺めるようにしよう。今度買うのはいつかなあ。
 
 
いっぽう、水樹和佳(現在のペンネームは水樹和佳子)の小品「夢追い人と桜の木」(ぶ~けコミックス「灰色の御花」所収)は、いわば明るい気づきを取り扱っている。多くの方がこれを読めないだろうからネタバレ半分で書いておくと、小さな頃には神様がしてくれたと思っていたことが、実はそうではなくて、“人”の仕業だったとわかったときの驚きと感動が鍵となって展開するストーリーだ。

灰色の御花(水樹和佳、ぶ~けコミックス)
※Amazonでは見つけられない

わかることや気づくことは悲しい場合もあるけれど、こんなふうなストーリーは嬉しいなと思う。水樹氏はSFでも読ませるが、こういう佳品もある。私が中学生の頃はその両方ともに読めて幸せだった。あはは。
 
 
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他にも「アンダーカレント」をきっかけとして書き出したくなってしまった作品は幾つかある。

水樹和佳でいうと、「樹魔・伝説」も言及したい。また当然ながら「アンダーカレント」の重要な挿入歌である Chara の Duca も。

ひとまず Duca は明日。
 
 

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